研究概要 |
研究代表者は、これまでに、タンパク質の二次構造形成能に着目し、このタンパク質膜中に外来の酵素を導入することによって、酵素固定化材料の開発を行ってきた。この方法の特徴は、担体となるタンパク質の自己組織的な水素結合網(二次元結晶)形成能を利用することで、酵素等を従来の方法より安定に包括できることである。これは、タンパク質膜に分子認識能を付与する機能化の一貫であったが、その研究過程で、特殊な酵素反応(刺激)による物質移動によって、そのタンパク質膜が電気化学的な応答(膜電位)を示すことを新たに見いだした。本研究では、上記のような反応と拡散の共役した膜系おける膜電位発生機構を明らかにすることを目的とし、特に、タンパク質の配向構造のキャラクタリゼーションを試みた。酵素固定化機能のある絹フィブロインタンパク質の一軸配向試料を作製し、その^<15>Nおよび^<13>固体NMR測定をした。ここで用いた解析手法は、ペプチド平面のNHまたはNC'結合の配向軸に対する角度とその配向分布が決定できる方法を応用した。その結果、絹フィブロインの結晶性領域と非晶性領域フラクションの決定、各々の領域に含まれるGly,Ala,Ser,Tyr,Valの配向角度、核残基の主鎖内部二面体角(phi、psi)、水分吸着によるペプチド結合の動的な構造変化などを定量的に決定することができた。これらの原子レベルの結晶構造に関する知見は、さらに、電気化学的な特性と相関づけることによって、膜電位発生機構解明へと発展させることが可能と考えられる。
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