1.アロステリックタンパク質共通の分子論的機序を調べる目的で、ヘモグロビン分子の酸素結合における中間状態分子のモデル系をニッケルボルフィリン(デオキシヘムのモデル)による金属置換と分子内架橋(2量体組換え反応の防止)の合併による架橋金属置換混成ヘモグロビンで構築した。今年度行った研究では、全部で8種類ある中間状態分子のうち、研究の重要性が高いと思われる酸素分子の2個結合した4種類の中間状態分子に着目し、これら4分子のモデルとなる高純度試料の調整を行った。 2.これらモデルを使った2段階酵素平衝曲線の測定から以下の結果を得た。(1)デオキシヘモグロビンではalphaサブユニットがbetaサブユニットと比較して約3倍高い酵素親和性を示す。(2)酵素化初期段階でのヘム間相互作用の大きさはbeta1beta2、alpha1beta1、alpha1beta2、alpha1alpha2の順に大きくなる。(3)これらのヘム間相互作用はタンパク質の高次構造変化を介して伝わったものと考えてもそれほど大きな矛盾は出てこない。 3.本研究の主要な計画の1つに入っていた中間状態分子の高分解能X線結晶解析は予定していたよりも難しい実験であることが解ってきた。顕微分光器によるヘモグロビン結晶の酸素平衝曲線測定で結晶格子力の影響を調べたところ、酸素親和性の高い異常ヘモグロビンを含むほとんどのヒトヘモグロビンは、結晶中でダオキシヘモグロビン型の酸素親和性の低い構造に閉じこめられてしまうことが解った。したがって、中間状態を溶液に近い状態で結晶中に固定することは極めて難しいと思われる。現時点では先ず、結晶格子力のもとになる分子間水素結合に関与するアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換した異常ヘモグロビンを大腸菌で合成させ、結晶格子力を減少させたヘモグロビン結晶を作る方向で実験を進めている。
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