本年度の成果により、速度論敵パラメータおよび熱力学的パラメータの評価が「人工抗体ライブラリー」実用化に必須であることがわかった。 1.まず論文1(J.Biol.Chem.268(1993)16639-16647)により、抗体分子抗原結合領域のアミノ酸変異がたとえ類縁アミノ酸であろうとも、顕著なentropy-entharpy compensationを示すことを報告した。 2.論文2(J.Biol.Chem.268(1993)20668-20675)により、Fv-Protein A融合蛋白質の大腸菌分泌産生システムを創り出し、ヒトIgGF_Cフラグメントと安定な複合体を形成させることで人為的に抗体の結合価数を3価に増やすことに成功した。これらの抗体分子複合体は単一分子と比較し著しく小さいk_<off>を示し、結果的にK_Aが大きくなることを速度論的パラメータ解析により明らかにした。 3.現在投稿中の成果ではあるが、論文1で示したentropy-entharpy compensationが抗原抗体反応の活性化複合体形成過程の主に脱水和反応に由来することを解明している。これはアミノ酸変異の結果としての△_G変化は活性化複合体形成以後の側鎖間の非共有結合形成過程に由来することを意味している。 同じく投稿中の成果として、PhageDisplayAntibodyLibraryの内、実際に抗体分子を発現しているのは10%以下であり、かつ、抗体分子を発現しているファージのかなりの部分が抗体分子を多価で発現していることをバイオセンサーによる速度論的パラメータ解析により初めて証明している。これらの多価性がファージライブラリーのセレクションにおいて悪い影響をあたえるのは明らかである。この問題も「マイルドな界面活性剤により多価ファージを1価ファージに変換する方法」により解決した。
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