多くの遺伝子発現調節にエンハンサーが重要な役割をはたしている。細胞小器官のひとつペルオキシソームに存在するアシルCoAオキシダーゼの遺伝子の薬剤応答性エンハンサーの解析過程で、従来のエンハンサーの概念とはかなり異なった領域(約4kb)の存在が明かとなってきた。(1)方向依存性はない(2)他のプロモーターに対しても効果がある(3)検討したいくつかの細胞について効果が認められる、という点は通常のエンハンサーと同じであるが、(4)一過性発現系では全く効果がなく、安定発現系でのみ著明に作用する(5)活性領域を従来知られているエンハンサーのように小さく絞れない、といった点は非常に特異である。この領域がどのようにして遺伝子発現に影響を及ぼしているのかについて明らかにするために実験を行い、以下のような結果を得た。 1 この領域には4つのID配列が認められた。しかし、これらを全て欠失させても、活性は認められた。 2 安定トランスフォーマント中のCATプラスミドの平均コピー数を検討したところ、この領域を含むものは約5倍に増加していた。しかしCAT活性の比は約100倍であり、単にコピー数の増加による影響ではない。 3 組み込まれたプラスミドのメチル化状態について検討をしたが、この領域を含むものも含まないものもいずれも低メチル化状態にあり、有意な差は認められなかった。 4 安定トランスフォーマントをクローニングし解析したところ、この領域を含んだものでは、CATプラスミドがインテグレーションしたクローンでは高いCATの発現がみられたのに対し、含まないものではインテグレーションされていてもまったくCAT活性の認められないものが多数存在した。このことからクローンを分離して解析することの重要性が示唆された。
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