研究概要 |
大腸菌染色体におけるDNA合成速度はほぼ一定で、1秒当たり約1kbという速い速度で進行していると考えられている。我々は、少なくともプラスミド上において、複製フォークの進行を遅くするという新しい活性(slow down活性)を有するDNA断片を大腸菌染色体上に2種類同定してきた。二次元寒天ゲル電気泳動法による解析により、この活性は、特定部位でのフォーク阻害ではなく、プラスミド上においてほぼ一様に一方向の時のみにフォークの進行速度を低下させることが解った。さらに、この活性と対応して、このプラスミドを持つ菌はフィラメント状に伸び、核の形態も異常になることが判明した。 本年度は、このslow down活性の直接的シグナルが、(a)DNA上のcisに働く特異な配列 (b)クローンDNA上の転写と複製の衝突 (c)クローンDNA上からの転写産物(タンパク質)の影響の3つ考えられる可能性の内のどれであるかを明らかにするために、プラスミドpUCベクター上のlacプロモーターの位置を逆にしたものを構築した。その時にslow down活性を示すDNA断片の向きを本来のものと比較することにより、この活性の原因は、(C)のクローンDNA上からの転写産物の過剰生産によることが明らかになった。 同定された2種類のDNA断片の内の1つは、既にDNAの塩基配列が報告されており、そのDNA断片上に3つのORF(ORF1,2,3)をコードしている。そこで各ORFの欠失変異体をPCR方により作製し、それぞれのslow down活性を調べたところ、分子量108kDという大きなタンパク質をコードしていると思われるORF1を欠失した時にのみ、slow down活性は消失した。また、ORF2とORF3の両方を欠失させORF1のみを持たしたものはslow down活性を示した。これらのことより、ORF1によりコードされているタンパク質が、何らかの形でslow down活性に関与していることが明らかになった。同様な実験をもう一つのDNA断片にも適用するため、現在このDNA断片の塩基配列を決定しているところである。
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