SV40DNAの無細胞複製系に対する種々のプロテインキナーゼの影響を調べる目的で、まず精製された複製蛋白質に対して試験管内でリン酸化反応を行なってみた。その結果、MAPキナーゼやカゼインキナーゼIIがいくつかの複製蛋白質をリン酸化することが明らかとなった。しかしながら、これらのリン酸化反応によって各複製蛋白質の活性、および全体の複製反応に影響が見られるという結果は得られなかった。一方、ガン抑制遺伝子産物がG1期からS期への移行、染色体複製の開始を制御するという観点から、ヒトp53蛋白質の昆虫細胞における大量発現、ならびにモノクローナル抗体を用いた精製系を確立した。この系を用いて野生型ヒトp53蛋白質、およびヒトがん細胞から単離された数種の変異型p53蛋白質を精製し、SV40DNAの無細胞複製系に対する影響を解析した。その結果、野生型p53蛋白質SV40DNA複製を強く阻害したのに対して、変異型p53蛋白質はいずれも阻害を示さなかった。このSV40DNA複製の阻害活性と、それぞれのp53蛋白質のSV40T抗原との結合能の間には良い相関が見られ、実際に複製産物の解析から野生型p53による複製の阻害が開始段階の阻害であることが示唆された。現在、この組換えp53蛋白質を試験管内でリン酸化、および脱リン酸化した時に複製阻害活性に影響があるかどうか検討中である。
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