G1サイクリンの中で、サイクリンDは癌化との関連が予測され、特に注目されているが、組織や細胞の種類による発現の差が大きく、サイクリンDの役割を解明するためには『どのような細胞系譜の細胞でいつサイクリンDが役割を果たしているか』を明かにすることが重要である。ところが、これまでにサイクリンDについてはほ乳類の培養細胞で記載されているのみであった。本研究においては、初期発生の段階を解析するのに有効なアフリカツメガエルの卵、初期胚を実験材科として用い、まず、サイクリンDの機能するステージを明かにし、サイクリンDの機能を探るための端緒としようとした。 我々のクローン化したサイクリンD2はDlやD3と比べて広範な細胞種で発現しているとされていることから、このサイクリンD2に対する特異的な抗体を作成した。この抗体を用いた免疫沈降によって、アフリカツメガエルの卵成熟(減数分裂)過程、初期発生過程におけるサイクリンD2の動態を追跡したところ、未成熟卵ではサイクリンD2蛋白質はほとんど無く、受精後に徐々に増加し胞胚中期に顕著なピークを示し、その後、神経胚になると急激に減少することが明らかとなった。さらに、この抗体を用い、胞胚と神経胚の切片を間接蛍光抗体法で観察したところ、胞胚期の細胞の核に強いシグナルがあり、核の周辺にもあった。また、細胞数の多い動物極側にシグナルが多かった。一方、神経胚では細胞数は胞胚に比べてずっと多いが、サイクリンD2のシグナルは検出されなかった。このような胞胚期に特異的な発現の様式から、サイクリンD2は胞胚期において重要な機能を持っていると予測される。胞胚期はこの時期を境として、父性ゲノムの転写や細胞運動の開始されるところであり、細胞周期の面から見ると、GlとG2期(ギャップ期)が生じ、細胞増殖機構が劇的な転換を起こすときである。この度の我々の観察結果はこの細胞周期の転換にサイクリンD2が関与している可能性を示唆するものである。これはサイクリンDの機能を解明するための糸口となるものと予測され、胞胚期の前後でのサイクリンD2と結合する蛋白質の種類や結合の様式、活性などを追及していく必要があると考えられる。
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