動物細胞や酵母における研究から、プロテインキナーゼC(PKC)などのリン酸化酵素によるリン酸化カスケイドが、細胞内シグナル伝達系を形成していること、このリン酸化カスケイドに関わる各々のリン酸化酵素が種々の生物種においてよく保存されていることが明らかにされている。我々は植物細胞においても類似したシグナル伝達系の存在を予想し、対応するリン酸化酵素遺伝子をクローニングすることを行ってきた。本年度は遺伝子クローニングのために、すでに出芽酵母において明らかにされているシグナル伝達系の種々の変異株を用い、その変異を機能的に相補する遺伝子をタバコ培養細胞のcDNAライブラリーから分離することを行った。その結果、十数種類の候補となるcDNAクローンを分離した。塩基配列を決定し、そこから予想されるアミノ酸配列を調べたところ、リン酸化酵素をコードしていると考えられるcDNAクローンは得られなかった。予想されたアミノ酸配列をもとにデーターベースによるホモロジーサーチを行ったところ、既知の遺伝子とホモロジーを示すものはなかったが、RNA結合活性示すドメインを含むもの、塩基性領域とジンクフィンガードメインと思われる領域を含むb-ZIP型の転写制御因子と考えられる遺伝子が分離されていることが明らかになった。これらの遺伝子産物が、実際に植物細胞内のシグナル伝達系に関与している可能性については現在のところ不明である。今回のスクリーニングに用いた一連の変異株は、いずれもその変異が不安定であり、変異の相補を見分けるのがかなり困難な株であったために、得られたcDNAクローンが必ずしも異変を相補しているとは言い難いものがあった。今後、別の変異株を用いることにより期待するリン酸化酵素遺伝子が分離できる可能性が残されている。
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