細胞分裂周期におけるプロテインホスファターゼの役割は、今までの数多くの研究により明らかにされつつあります。報告者は以前、プロテインホスファターゼ1型及び2A型の阻害剤であるカリキュリンAによって、ウニ未受精卵に分裂溝様の構造が誘導されること、そして同時にヒストンH1キナーゼ活性の上昇と、染色体の凝縮が引き起されることを報告しました。このヒストンH1キナーゼ活性はタンパク質合成阻害剤であるエメチンによって低下がみられないことから、通常のサイクリンB合成依存的に活性が上昇するMPFによるものではないことが示唆されました。今回、カリキュリンAで処理したウニ卵を一定時間ごとにホモジナイズし、その抽出液の内、p9^<CKShs2>ビーズに結合するフラクション(MPFフラクション)を得、それを電気泳動した後にウエスタンブロット法を用いて調べたところ、MPFの構成成分の内、p34^<cdc2>は正常にみられたものの、サイクリンBは検出されませんでした。また、in vitroの系で[delta-^<32>P]-ATPを用いて、卵より抽出したMPFフラクションのヒストンH1キナーゼ活性を調べたところ、卵全体のヒストンH1キナーゼ活性に比べてかなり低い値を示すということが判明しました。なお、通常の細胞周期に伴うヒストンH1キナーゼ活性は大部分がMPFフラクションに存在しました。加えて、cdc2キナーゼの阻害剤であるブチロラクトンIは、このカリキュリンAによる染色体凝縮を阻害しませんでした。これらのことからカリキュリンAは、MPF活性を上昇させないで、別の径路によりヒストンH1キナーゼ活性を上昇させ、染色体凝縮を誘導している可能性が高いと考えられます。
|