POUドメインと呼ばれる配列(一次構造)は細胞分化に関わる一群の遺伝子にコードされているタンパク質に見出された共通の構造でありDNAとの結合に関与していると考えられている。近年、このPOUドメイン遺伝子は様々な生物から単離され、そのうちのいくつかのものは神経系の発生・分化に深く関与していることが明らかになってきた。一方、扁形動物プラナリアは、はしご状神経系をもち、進化学的に、中枢神経系の発達したもっとも下等な動物である。しかも、この動物は体のどの部分からでも神経系を含めて完全な個体を再生することができるというユニークな特性をもつ。本研究では、私が昨年度に単離し、全一次構造を決定したDjPOU1(プラナリアPOU遺伝子1)に加えて、新たなPOU遺伝子DjPOU3の単離に成功し、その全一次配列を決定した。さらに、これら2つのPOU遺伝子の発現について調べることを試みた。DjPOU3はアミノ酸600残基からなるタンパク質と推定され、POUドメインは中央からC末端側に見い出された。またPOUドメインのC末端側に連続したアスパラギンの配列がみられた。DNAデータベース中でDjPOU3と類似の遺伝子の検索を行ったところ、つい最近報告されたラットBrn5、マウスEmb、ゼブラフィッシュPOU[C]のPOUドメイン遺伝子と極めて高い類似性を示した。しかし、その類似性はPOUドメインに限定されていた。DjPOU3の発現をノザンブロット法により調べたところDjPOU1に比べ体の前方でのより限定された発現がみられた。このことは発生の時期にもよるがBrn5、Emb、POU[C]がいずれも神経系で発現していることを考えあわせると、DjPOU3もプラナリアの神経系、とりわけ脳でつよく発現していることを示唆している。そこでより詳しく発現領域を調べるためin situハイブリダイゼーション法を試みたが、現在までのところ明確なシグナルは得られていない。(DjPOU1についても同様)そこで遺伝子産物に対する抗体により、発現領域を調べることにした。その第一段階として、PCR法を用いてDjPOU1と3の各々をマルトース結合タンパク質に融合したタンパク質を大腸菌中で大量につくることを試み最近それに成功した。今後は、これらの融合タンパク質に対する抗体を作製し、DjPOU1及び3発現領域を明らかにするとともにプラナリアの脳の再生現象をPOUドメイン遺伝子に発現という点から調べていく予定である。
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