複合糖鎖は脊椎動物細胞の細胞表面において糖脂質、糖蛋白質やグリコサミノグリカンなどの多様な構造の分子として存在としているが大部分の複合糖鎖の生物学的機能は今だ謎に包まれたままである。しかし近年、一連の複合糖鎖の中でグリコサミノグリカンに属するヘパラン硫酸の糖鎖部分がbFGFの低親和性レセプターであり、ヘパラン硫酸とbFGFの結合がbFGF高親和性レセプターへの結合とそれに続くシグナル伝達に必須であることが培養細胞ほ用いた実験で示された。ヘパリン結合性増殖因子群は脊髄動物の発生過程において中胚葉誘導因子として機能していることから、申請者はヘパラン硫酸が分化や形態形成などの初期発生に積極的に関わっているものと推定した。そこでヘパリン結合性細胞増殖因子による胚誘導現象に関する知見の豊富なアフリカツメガエル胚におけるヘパラン硫酸の発現と機能を検討した。まずその発現パターンを調べるためヘパラン硫酸特異的糖鎖構造を認識する単クローナル抗体HepSS-1による免疫組織化学的解析を行った。その結果後期胞胚から原腸胚にかけての外胚葉および中胚葉性の細胞にヘパラン硫酸が発現し始め、神経胚から尾芽胚においては中胚葉に由来する脊索の細胞外表層と外胚葉に由来する神経管腹側周縁部に強く発現しているという興味深い知見を得た(論文投稿中)。このような胚内での発現分布からヘパラン硫酸が機能分子として存在していると思われたのでFlavobacterium heparinum菌体から完全精製したヘパラン硫酸分解酵素ヘパリチナーゼ(生化学工業 吉田圭一博士より供与)を胞胚腔にマイクロインジェクションし発生中の胚内でヘパラン硫酸糖鎖を分解することを試みると、驚くべきことに頭部神経系、体節などの組織の発生が完全に阻害され、組織形成だけでなく特異マーカーの発現解析から細胞レベルの神経及び筋肉分化も強く抑制されていることがわかった。この現象はグリコサミノグリカン分解酵素や熱処理したヘパリチナーゼでは見られないことからヘパラン硫酸分解酵素に特異的であった。ヘパリチナーゼ注入胚の形態は尾部は変異FGFレセプターを導入した胚と、また頭部は変異アクチビンレセプターを導入した胚に酷似していることから増殖因子群による中枢神経系および中胚葉性組織の発生をヘパラン硫酸糖鎖が調節している可能性が示唆された。
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