研究概要 |
プロテインキナーゼ(PKC)の制御因子であるジアシルグリセロールキナーゼ(DGK)の神経情報伝達機構における役割を追及する目的で、先にクローニングしたグリア細胞型80kDa-DGKのcDNAを用いて、ラット脳より神経細胞型DGKをクローニングし、その一次構造の解明を行った。この神経細胞型DGKのmRNAは、801個のアミノ酸をコードする翻訳領域を含む全長6,2kbであった。推定分子量は90,287Daであり、90kDa-DGKと命名した。この90kDa-DGKは先の80kDa-DGKと比較して、アミノ酸配列において58%の相同性を有しており、80kDa-DGKと同様、EF-hand構造、Zinc finger様構造およびATP結合部位を含んでいた。ノーザンブロット解析において90kDa-DGKmRNAは、とりわけ脳に多く、次いで副腎、小腸に検出され、80kDa-DGKmRNAが豊富に発現している脳腺、膵臓などのリンパ系組織にはmRNAの発現は認められなかった。この90kDa-DGKcDNAをCOS-7細胞にtransfectionし、種々のDG分子種に対するDGK活性を測定したところ、90kDa-DGKは長鎖脂肪酸を含むDG分子種により、高い活性を示すことが明らかとなった。90kDa-DGKの脳内遺伝子発現は、腺条体、側座核、嗅結節、嗅球といった限局した神経細胞群に強く認められた。 今回、神経細胞DGKの一次構造が解明され、その発現局在、酵素学的性質が明らかにされた。特に、中枢神経における発現様式は、90kDa-DGKの関わる生理作用を考える上で非常に興味深い。すなわち、90kDa-DGKmRNAが強い発現を示す腺条体、側座核、嗅結節、嗅球といった部位は、ドーパミン作動性神経の投射領域と一致し、ドーパミン受容機構との関わりを示唆している。また、90kDa-DGKの限局した脳内発現は、神経細胞におけるDGKの多様性をも示唆しているものと考えられる。
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