研究概要 |
本研究ではリセプターチロシンキナーゼ(RTK)ファミリーのうち、リガンドが未だ同定されていないephサブファミリーに注目し、このファミリーに属する未知のRTK遺伝子を同定することを目的とした。まずephサブファミリーのチロシンキナーゼドメインの内で特異的に保存されているアミノ酸配列を選択し、これに対応する変性オリゴヌクレオチドプライマーを合成し、これをプローブとしレチノイン酸により神経文化させたP19細胞より作成したcDNAライブラリーをスクリーニングした。合計4個の独立したcDNAクローンが得られ、これらのクローンの塩基配列を決定したところ、このうち3個は既に報告のあるsek,eck,elkのマウスホモログであることが判明した。残りの1クローンは既報のいずれのRTK遺伝子とも弱い相同性しか示さない新規の遺伝子であった。我々はこれをとりあえずeskと名付け、in situ hybridization法により発生過程神経系における同遺伝子の発現局在を検討した。esk mRNAはephサブファミリーのメンバーの中でもユニークな発現パターンを呈する。すなわち胎生中期より中枢神経系を中心に比較的広範囲に発現しているが、他のメンバーとは異なり後根神経節に強いシグナルを認めた。また内耳の感覚神経上皮にも強い発現が観察され、以上の結果を考え併せるとeskは感覚神経系の発生、形態形成、分化に関与している可能性が強い。また胎生期マウスの大脳皮質のsubplate neuron(求心性神経線維と大脳皮質神経細胞間の回路形成に重要な役割を果たすことが知られている一過性に出現する神経細胞)に発現していることもわかり、この神経細胞に発現しているRTK遺伝子は我々の知るところ存在していなかったのでこのeskが大脳皮質の回路形成に何らかの機能を果たしている可能性が考えられ、今後の検討課題として興味深い。
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