大脳皮質のGABA作動性の抑制性の内在型の非錐体細胞に、近年、伝達物質として注目をあびているNOを生合成するNO合成酵素を含有する非錐体細胞が大脳皮質に散在していることが示された。非錐体細胞には形態や含有する化学物質の違いからいくつかのサブタイプが存在していることが知られているが、本研究ではNO合成酵素含有細胞が非錐体細胞のどのサブタイプに属しているかを免疫組織化学二重染色法あるいはミラー法を使って検討した。その結果、NO合成酵素含有細胞は、ソマトスタチン含有細胞のサブタイプとして存在し、かつニューロペプチドYを含有する大型の非錐体細胞であった。さらに大脳皮質の神経細胞の中に占める割合は非常に少なくソマトスタチン細胞のわずか1-3割であった。また、皮質の浅層ではNO合成酵素含有細胞の約7割がカルシウム結合蛋白質の一種であるカルビンディンを含有しないが、逆に深層ではNO合成酵素含有細胞の約8割がカルビンディンを含有するということも示された。またこれらのNO合成酵素含有細胞のカルビンディンの濃度はうすく、カルシウム結合蛋白を含有する他の細胞よりも細胞内カルシウム濃度のシナプス刺激による一時的な増加が大きい可能性が示唆された(Neuron 6(1991)41-51;ibid9(1992)943-954)。NO合成酵素はカルシウム依存性であるため、この結果は、NO合成酵素含有細胞が効率的にNOの産生を行っていることを示唆すると考えられる。近年、興奮性伝達物質に刺激依存性に小脳のプルキニエ細胞がカルビンディンの細胞内濃度を変化させることが示されたが(NeuroReport 4(1993)927-930)、個々のNO合成酵素含有細胞でカルビンディンの含有の有無に差が認められるということは、個々の細胞の何らかの活動レベルの違いを示唆するものと思われる。
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