芳香族L-アミノ酸脱炭酸酵素(AADC)は、カテコールアミンニューロンやセロトニンニューロンにおいて、前駆体アミノ酸を脱炭酸してアミンを産生する反応を触媒する酵素である。AADCは神経系以外にも肝臓・腎臓などの非神経組織で高い活性が存在する。これまでに我々は神経型のAADCのmRNAと非神経型のmRNAは異なる第一エキソンを用いていることを報告した(エキソンN1およびエキソンL1)。本年度我々はヒトAADCの遺伝子より、エキソンN1から5'上流7.0kbまで、エキソンN1から5'上流3.6kbまで、エキソンL1から5'上流2.8kbまでの各フラグメントを切り出し、ウサギのbeta-グロビンイントロンを介してクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)遺伝子に接続した三種類のDNA(ACA、ACN、ACL)を用いてトランスジェニックマウス(Tg)を作成した。ACAのTgでは膵臓、肝臓、腎臓、小腸、大腸できわめて高いCAT活性を発現した。これらの組織はAADC活性の分布と一致し、また免疫組織化学の方法により、肝細胞および副腎髄質細胞にCATの免疫活性とAADCの免疫活性が一致して存在することを確認した。しかし、中枢神経系においてはCATの免疫活性の分布はカテコールアミンニューロンおよびセロトニンニューロンと一致しなかった。ACNのTgでは、多くの組織でCAT活性を発現したが、その強さはACAに比較して弱いものであり、特に肺と肝臓では殆ど活性を発現しなかった。ACLのTgでは腎臓に中程度のCAT活性を発現した。これらの結果から以下の結論が導かれる。1、ヒトAADC遺伝子のエキソンN1から3.6kb上流まで、およびエキソンL1から2.8kb上流までのフラグメントは単独で十分強くレポーター遺伝子を発現することはできず、組織特異的な発現も見られない。2、エキソンN1から7.0kb上流までフラグメントは末梢の非神経組織にAADC活性の分布に一致して十分な活性を発現し得るので、これらの組織に対するシスエレメントの大部分を含んでいる可能性が高い。3、中枢神経系においてカテコールアミンニューロンおよびセロトニンニューロン特異的にAADCの発現を調節する領域はさらに5'上流もしくは5'上流域以外の部位に存在することが推定される。これらの結果に基き培養細胞を用いてさらに詳細なシスエレメントの解析と、特に神経特異的な発現を規定する領域を検索する予定である。
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