脳内の興奮性アミノ酸が神経変性疾患において重要な役割を果たしていることが報告された。その中でキノリン酸は、トルプトファンの代謝物であり、N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体サブタイプに作用する内因性の興奮性アミノ酸であること、老化や病的な状態によりその脳内含量が増加することから、種々の神経変性疾患の原因となっている可能性が示唆されている。特にキノリン酸とハンチントン舞踏病との関連性が示唆され、キノリン酸の脳内投与による神経化学的な変化については多くの報告がなされているが、学習・記憶障害については詳細な検討はされていない。そこで、ハンチントン舞踏病患者において細胞障害のみられる線条体および前皮質にキノリン酸をラットに投与したときの学習・記憶障害について検討し以下のような結果を得た。 1.放射状迷路学習法において、キノリン酸を線条体および前皮質に注入した群で、エラー数の増加が認められた。2.受動的回避学習法において、キノリン酸を線条体及び前皮質に注入した群で、ステップスルー潜時が短縮する傾向が見られた。3.水迷路学習法において、キノリン酸を線条体または線条体と前皮質に注入した群で、遊泳時間が有意に長く、有意な学習・記憶障害が認められた。また、プラットホームを除いた偽試行において、プラットホームのあった位置を泳いだ回数は、キノリン酸を線条体に注入した群で有意に少なかった。4.線条体または線条体と前皮質にキノリン酸を注入すると、線条体においてのみコリン合成酵素およびGABA合成酵素が減少した。5.キノリン酸の注入部位を組織学的に検討したところ、線条体への注入では線条体の広い範囲が破壊されていたが、前皮質では、投与部位でのみ細胞が障害を受けていた。 以上の結果より、キノリン酸を線条体に注入することにより、神経化学的および組織学的変化のみならず、学習・記憶も障害されることが明かとなった。しかし、前皮質への注入ではそのような変化は認められなかった。前皮質では破壊された部位が限局していたこと、神経変性疾患は進行性であるが、今回キノリン酸は急性投与していることなどから、より臨床に近いモデルを開発する必要性があると思われる。
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