再生力の強い生物として有名なヒドラでは、神経細胞の生成・移動・消滅という動的過程により神経網の定常状態が保たれている。このヒドラの神経網は散在神経系であり、比較的解析が容易であると考えられる。そこでこの散在神経網を画像処理手法を用いて解析する試みを行った。材料に用いたヒドラは、日本産チクビヒドラ(Hydramagnipapillata)の標準野生系統105である。このヒドラのRF-amide陽性の神経細胞は、間接蛍光抗体染色法により可視化することができるため、蛍光顕微鏡を用いて400倍の倍率に拡大して撮影した触手部の神経節細胞の写真を入力画像として画像処理装置に入力した。この神経細胞のRGB各成分を調べてみると、背景はR成分が殆どをしめており、GとB成分が神経細胞を表していた。特にG成分がより広い階調で神経細胞の特徴を表していた。そこでこの画像から神経細胞の部分をより鮮明に抽出するために、RGB各成分の画像を用いて各種の画素間演算を行ったみた結果G成分をR成分で除算した画像(G/R画像)が一番よく神経細胞の特徴を表していた。次に神経細胞の様々な特徴を捉えるために、このG/R画像に対して各種の画像処理を行った。ネガ画像では、神経細胞の内部の構造が鮮明に抽出されていた。コントラスト強調をした後、ハイパスフィルタをかけた画像では、神経細胞がより鮮明に見えていた。ソ-ベルオペレータによって微分をした画像では、神経細胞のエッジが抽出され、樹状突起と軸索による神経網の様子がよくわかるようになっていた。これらの手法を用いて、他の部位の神経細胞についても特徴を抽出することにより、神経細胞の分布や結合の状態、神経網の特徴を定量的に捉え、散在神経系のより詳細な解析を行うことが可能になる。また形態形成と神経網形成という2つの自己組織化過程の相関関係の詳細な解析が可能となる。
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