本研究はシナプスにおける情報伝達機構解明を目的とする。線虫C.elegansのunc-18遺伝子は68Kの親水性蛋白質をコードし、unc-18遺伝子変異により、行動異常、アセチルコリンエステラーゼ抵抗性、アセチルコリン異常蓄積等の表現型がみられる。また、酵母の細胞内小胞輸送に関与するSecl/Slyl/Slplとの類似性から、UNC-18蛋白質は神経伝達物質放出に関わる新しい因子であると推論された。特に変異によりsecretory vesicleの蓄積を起こすseclと似ていることから、神経細胞においてsynaptic vesicleの神経終末への輸送やexocytosisに関与している可能性が考えられた。unc-18の発現パターンを抗UNC-18抗体による免疫染色で調べたところ、腹部神経索を構成する運動神経細胞の細胞体と軸索が強く染色され、頭部ガングリオンの一部のん神経細胞でも特異的に発現が認められた。unc-18遺伝子変異はアセチルコリン異常蓄積を引き起こすが、コリン作働性神経細胞だけではなく、セロトニン作働性、GABA 作働性神経細胞でも発現していることから、一般的な神経伝達物質放出に関与することが示唆される。 また、本年度の研究実施計画に基づき、UNC-18蛋白質の機能ドメインを同定するため線虫C.elegansの近縁種C.briggsaeのゲノムライブラリーを作製し、unc-18相同遺伝子をクローニングした。DNA塩基配列から予測されるアミノ酸配列は高度に保存されており(97.5%同一)、C.elegansUNC-18蛋白質に対する抗血清と交叉反応を示した。線虫のシナプス機能に関与する遺伝子には哺乳動物遺伝子と相同性を示すものがあることから、マウスunc-18相同遺伝子のクローニングを行った。弱い条件下でのサザン、ノーザンハイブリダイゼーションによりシグナルが検出されなかったため、Secl/Slyl/Slplとの相同領域をプライマーとして脳PolyA+RNAのRT-PCRを行った。unc-18とアミノ酸レベルで70%程度相同な2つの分子種が得られた。これら2つのマウス相同遺伝子と2つの線虫遺伝子のコードするアミノ酸配列を比較することにより、高度に保存された配列が決定された。また、マウス相同遺伝子のノーザンブロット解析から、一方は脳特異的な4.0kbの転写産物がみられ、他方は各組織に2.8kbの転写産物が検出された。この結果はunc-18相同遺伝子がシナプスにおけるregulated secretionだけでなく真核細胞共通に起こるconstitutive secretionにも関与することを示唆する。現在、これらの相同遺伝子が線虫unc-18突然変異を機能相補し得るかどうか検討中である。
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