研究概要 |
中枢神経系は発生過程で神経幹細胞(neuronal stem cell)が増殖分化し、種々の神経細胞およびグリア細胞になる。このcell fateの決定において、多くの液性因子およびそのレセプターが関与している。これまで神経系の発生分化に関与する因子としてNerve Growth Factor(NGF)familyの他bFGF、EGF、IGFなどが知られているが、これらのレセプターはTyrosine kinaseである。また各種サイトカインのシグナル伝達にもTyrosine kinaseが関与している事が最近わかってきた。そこでretrovirus vectorを用いて作成したimmortalized cell lineを使って神経幹細胞の増殖分化におけるTyrosine kinaseの役割を解析することにした。 embryonic hypothalamic cell line(Sl)よりmRNAを抽出しreverse transcriptaseを用いてcDNAを合成した。既知のTyrosine kinaseのコンセンサスシークエンスより変性オリゴヌクレオチドプライマーを作成し、PCR法を用いて上記cDNAよりTyrosine kinaseのkinase domainを単離した。DNAシークエンスを調べた結果現在までにJAK1,JAK2,hck,Tyro10,bFGFR,RYK,c-met,仮称S1kの7種類のTyrosine kinaseを発現している事が分かった。JAK1はマウス成体脳ではhypothalamusのごく一部の神経細胞において発現しているとされ、このcell lineは胎児由来であるが同じhypothalamus由来である事は、特記に値すると思われる。JAK1,JAK2はつい最近Interferons,Interleukin3,4,7及びErythropoietin,Growth Hormoneのシグナルを伝達するnon-receptor typeのTyrosine kinaseである事が報告された。またbFGFReceptorをこのcell lineは発現しているが、実際bFGFはproliferationに効果がある事が分かった。c-metはhepatocyte growth factor(HGF)のレセプターであるが、最近HGFがneural inductionに関与しているという報告があり神経幹細胞ラインでの発現は極めて興味深い。Tyro10はNeurotrophinのreceptorにkinasedomainの相同性が高く、receptor typeのTyrosine kinaseと思われるが、遺伝子の全長がcloningされておらず、当然現在そのligandも解らない。RYKはreceptor typeのtyrosine kinaseであるが、そのligandは同定されていない。将来そのligandが同定されたとき、細胞に対する効果が解るであろう。仮称Slkについては、まだPCR断片以外シークエンスが得られておらず詳細は不明であり、cDNA libraryスクリーニングして遺伝子全長のクローニングを急いでいる。現在、cell lineに対するInterferons,Interleukinsの効果を検討中である。またこのcell lineはtemperature-sensitive mutantなので39Cにてcultureし、更にretinoic acid添加により高率にneuronに分化するので、分化前後での種々のtyrosine kinasesの発現変化を現在検討している。
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