研究概要 |
筆者らは、視覚の中継核である外側膝状体(LGN)を大脳皮質視覚野(VC)の白質下に移植した標本を用いて、LGNからVCへ、またVCからLGNへの結合が形成される過程を解析してきた。これまでに電気生理学的、及び形態学的手法を用いて、1)移植後、まずLGNの軸索は宿主VCの第2-6層に広く単シナプス性の結合を作り、その後この結合はVC第4、6層に限局し皮質内結合が2/3、5層に形成されること、2)宿主VCから移植LGNへの投射は最初は2-6層から広く起こり、その後に5、6層(主に6層)に限局されること、の2点が移植後1週目から3週目にかけて起こっていることを明らかにした。これまで、刺激に対するシナプス応答の記録は、細胞内記録により行っていたが、この記録法では膜電位を固定できないため、シナプス伝達に寄与するnon-NMDA,NMDA等の電流成分の正確な分離同定が困難であった。そこで今年度は、スライス標本にパッチクランプ法を適用し、シナプス電流を記録して、各々の電流成分の生後発達を定量的に解析することを試みた。 生後様々な時点で、ラットVCのスライス標本を切り出し、皮質細胞にblind typeのwhole-recordingを適用して膜電位を静止電位程度に固定し、白質刺激に対するシナプス電流を記録した。生後1週目程度の若い動物からは、比較的時間経過の長いシナプス電流が記録されたのに対し、生後3週目以降の動物からは、時間経過の短い電流応答が記録された。またNMDAレセプターのアンタゴニスト(DL-APV,0.1mM)を投与すると、シナプス電流のlate componentが著しく減少した。これらの知見はこれまでの研究結果に良く一致し、さらに今後この標本を用いたLGN-VC間の結合の発達に対する視覚入力の影響を研究する上で基礎的なデータになると思われる。
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