SCIDマウスは、成熟T・B細胞を欠損するため、無免疫グロブリン血症と異種細胞拒絶能の低下を示している。しかし、このマウスでは加齢に伴ない特異的に多発する胸腺腫により、多数の個体が比較的早期に死亡したり、原因不明の免疫グロブリンの産生が起こり(leaky現象)、実験の障害となる。本実験では、多数の個体を長期飼育し、経時的に血中Ig量および腫瘍発生頻度を観察することによって、胸腺腫やleaky現象の発育傾向や両現象間の関連性を検討した。マウスはCB-17-scid/scid255匹(♀131 ♂124)と、対照群としてCB-17-+/+225匹(♀114 ♂111)を使用し、バリア動物舎内で飼育した。 SCIDマウスは、生後6ケ月頃より漸次死亡し、21か月齢時には、生存率は43.9%となった。一方、対照群では生存率は75.6%であり、SCIDマウスの死亡数は有意に多かった。SCIDマウスでは初期の12か月齢頃までは胸腺腫による死亡が大半を占め、それ以降21か月齢までは非胸腺性リンパ腫がなどが増加し、逆に胸腺腫の発生が減少した。ただし、後期の胸腺腫以外での死亡個体数の増加は、対照群でも同様の傾向で見られたので、SCIDマウス特有の現象ではなかった。また、leaky現象については、生後3か月齢時にはほとんど見られなかった(7%)が、徐々に増加してゆき、21か月齢時にはほとんど(90.9%)の個体がleakyを示した。 Bosmaらの報告によると、leaky現象と、胸腺腫の発生との間には関連性があるとされている。一方今回の検討では、leakyマウスの死因は胸腺腫と非胸腫瘍でほぼ1対1(27:33)であった。また、死亡時にleaky現象を起こしていなかった個体においては、むしろ胸腺腫による死亡が多かった(胸腺腫:非胸腺腫=42:26)。よって、われわれはleaky現象の発生が胸腺腫の発症と直接関連していないとの結論を得た。
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