1.基本性能の検討 本研究の目的は、DSP(Digital Signal Processor)を用いて実時間で適応ノイズキャンセリングを行うことにより耐騒音性の高いディジタル式聴診器を実現することである。実時間処理の前段階として、ワークステーションによるオフライン処理により適応ノイズキャンセラの性能を評価した。騒音を人為的に発生させて実験を行ってノイズキャンセラの入力データを収録し、ソフトウェアで実現したノイズキャンセラの各パラメータや構成を変化させて騒音の低減効果を詳細に検討した。 2.電子式聴診器の実現 浮動小数点のDSPを搭載した市販の汎用ディジタル信号処理ボードを用いて実時間適応ノイズキャンセラを実現した。開発は、パーソナルコンピュータ上でC言語により行った。適応アルゴリズムにはオフライン処理と同様にLMSアルゴリズムを用いた。トランスバーサルフィルタのタップ数を64、サンプリング周波数を6kHzとして約11msのタップ長を持たせることより、約30dBもの極めて良好なノイズリダクションが達成できた。マイクロホン、アンプ、ヘッドホンと組み合わせて耐騒音性の高いディジタル式聴診器のプロトタイプを実現した。 臨床応用 喘息の検査に用いられる気道過敏性測定装置の発生する騒音に対して低減を試みた。結果は、大幅に騒音を低減することができ、検査中の肺音の同時聴取および計測が容易に、かつ精度良く行えるようになった。聴感上は騒音はほぼ完全に消えていた。今後、装置のコンパクト化を行い、より使いやすい形にまとめてさらに応用例を増やして行く予定である。なお本研究の要旨は第33回日本ME学会大会で発表する予定である。
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