研究概要 |
[高田の研究成果]17世紀の各方言地域から約3200例の用例を収集し分析した結果,次のことが明らかになった.副文での枠構造(定動詞後置)という統語規則はbehandelt werden muBやbehandeln lassen magのような3項からなる述語の場合も時間の経過とともに中部ドイツ語圏と低地ドイツ語圏へも着実に進行し,その結果17世紀の末には上部ドイツという空間的制約から原則的に解き放たれるに至った.しかし,だからといってどの方言地域の著者も17世紀末に同時にこの言語的改新を採用したわけではないことは,個人による差異の大きいことが示している.Grimmelshausenの『阿呆物語』(1668/69年)の改訂者は定動詞語順を変更したが,これは当時の平均的な語感に基づいての改訂と判断される.多項述語の副文語順の変遷は,言語変化において時間と空間と個人の選択という3つの要因が絡み合っていることを例証している. [大矢の研究成果]Grimmelshausenの『阿呆物語』をデータとして,現代ドイツ語における副詞節の位置を統御している原理が17世紀にも当てはまるかを検討した結果,次のことが明らかになった.1)一般に中高ドイツ語から新高ドイツ語にかけて,接続詞の意味が明確化したと言われるが,時間を表すals,理由を表す(die)weil,条件を表すwann/wennはその意味も生起位置もおおむね現代語と同様である.(die)weilは他の初期新高ドイツ語期のテクストでは時間の意味も表すが,『阿呆物語』では理由の意味で用いられることが多く,意味の明確化が進行していることが確認される.2)daは理由でなく場所,damitは目的でなく手段(=mit dem)の意味で用いられることも多く,da-がなお直示的・照応的な性格を保持していることが確認される.
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