研究概要 |
本研究は,微細電極中に作られた高周波高電界を用いて、核酸・タンパクなどの生体高分子を分子1本1本のレベルで扱えるマイクロマニピュレーションの手段を開発し,生体高分子を基板上に配列固定する手法の基礎的研究を行なうことを目的とし,次の成果を得た。 1.DNAの生物学的活性を失わずに固定する方法の開発:DNA分子を,分子全面にわたって固定してしまうと,RNAポリメラーゼがDNA上でRNAを合成するとき,あるいは制限酵素がRNAを切断するときなどに,固定した部位が立体障害として働き,DNAの読み出しや制限部位での切断ができなくなってしまうことを見い出した。この問題を解決するため,アビジン・ビオチンの分子間結合を利用してDNAの両端のみを基板上に固定する手法,および、DNAの長さよりわずかに短い間隙を持つ電極を用いてDNAの両端のみを固定する手法を開発した。さらに,これを用いて,DNAポリメラーゼがDNA上を移動していく様子の直接観察を行ない,この酵素の転写開始部位への到達のメカニズムを明らかにした。 2.1本鎖DNAの固定法に関する研究:塩基が外部に露出する1本鎖DNAを伸長・固定することができれば,トンネル顕微鏡による塩基配列の直接読み出しなどの応用が開ける。しかしながら,1本鎖DNAは電気力により伸長することができないので,まず,2本鎖DNAを伸長・固定しておき,その後にヌクレアーゼを作用させて固定1本鎖DNAを得る技術を開発した。 3.人工膜の作成法に関する研究:DNAやタンパクなどを固定する基板として,微細加工技術を用いて製作されたオリフィスに表面処理による表面電荷制御を施してここに黒膜を展開する手法を開発した。 これらの研究成果により,電気力学的手法によるDNA分子の固体基板上への固定の技術が確立され,また,脂質膜基板を用いた配向・固定へ道を開くことができた。
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