研究概要 |
中心側頭部に棘波を有する良性小児てんかん(Bening childhoood epilepsy with centrotemporal spikes;BCECS)は、小児期に多いてんかん症候群の一つである(Lombroso,1967)。発作間欠期脳波では正常な背景波と、特徴的な中心側頭部棘波すなわちローランド発射(rolandic discharge:RD)が認められる。RDの最も特徴的な要素は陰性鋭波とそれにひきつづく陽性波である(Luders,1986)。 脳波の電位的な研究(Lombroso,1967)、トポグラフィカルな研究(Gregory,1984)、および電気的な双極子法による研究(Wong,1989)が以前報告されているが、RDの脳内発生起源とその広がりは未解決の問題である。本研究では脳磁図37チャンネル-(magnetoencephalography:MEG)を用い、3次元的にBCECSのRDと体性感覚誘発脳磁野(somatosensory evoked magnetic fields:SEF)を詳細に検討した。 7名のBCECS患児と10名の他のてんかん患児を研究の対象とした。脳磁図の記録にはMagnes^R(Biomagnetic Technologies Inc.,San Diego,CA)を使用した。同時に記録した脳波の中でアーチファクトがない部分を選択しRDを分析した。対側の拇指、下口唇を高圧エア-で機械的に刺激し、大脳皮質におけるSEFを記録した(Morioka,1994)。 RDの陰性波の双極子はローランド溝の周囲に、前方に陽極、後方に陰極の水平方向の双極子として出現した。陰性波の双極子他の成分より比較的限局した領域に出現した。下口唇を高圧エア-で機械的に刺激し得られた双極子はRDの双極子の極近傍に出現した。また、BCECSのSEFは他のてんかん患者のSEFの3倍以上の値を示した。これらの事実は、BCECSのRDの発生起源がSEFと非常に良く似た機構より発生すること、BCECSの発作メカニズムの基礎に大脳皮質内間、あるいは視床大脳皮質間の過興奮性が存在すると考えられた。
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