本研究では、IgA腎賞の成因を追究するために、“IgA腎症では消化管または呼吸気道を介する感染性あるいは食餌性抗原が発症の引き金になっており、それらの粘膜における免疫学的反応が発症に関与している"という仮説をたて、この仮説に基づき消化管粘膜の役割に注目し経口抗原による実験モデルの作成に取り組んだ。 真菌由来のmycotoxinであるnivalenol(NIV)の12ppm 8週間継続投与により腎糸球体へのIgA沈着や血清IgAレベルの上昇、メサンギウムへのelectron dense depositの沈着などIgA腎症様の病態をマウスに誘発することができた。しかもNIVを使ったモデルは再現性がよくstrainに関係なく病態を誘発できるなど極めて有用である。NIV 6 ppmの6ヶ月ないし12ヶ月の長期投与では投与期間に平行して腎へのIgA沈着や血清IgAレベルが増加した。また、NIVを12ppm 8週間投与後普通餌に戻し8週後に検討したマウス(中止実験)ではIgAの沈着や血清IgAレベルは軽減していた。以上より、NIVモデルは粘膜免疫仮説と決して矛盾せず、NIVによる持続的刺激が病態の発現・維持に重要であることがわかった。 NIVに対するモデルマウス血清IgAのaffinityをcompetitive ELISAで検討したところ正常コントロールよりもaffinityが強く、モデルマウスのIgAはある程度NIVに特異的であると言える。また、モデルマウスの脾臓リンパ球をコントロールマウスにi.pするとrecipientの血清IgAが上昇し同モデルの成立にリンパ球が関与していることが明らかになった。 NIVモデルでは有意な尿所見の変化が認められない点が今後の課題であり、さらに消化管粘膜においてNIVがどう作用しているのか、gut-associated lymphoid tissueがどう反応しているか等、よりミクロな視点から分析を行う予定である。
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