研究概要 |
本年度は歯髄、象牙質(歯髄を含む)および歯石からDNAを抽出し,個人に特有なシングルローカスVNTRの一つであるD1S80(300〜800bp)とHLAクラスII抗原遺伝子(HLA-DQalpha:242bp),ならびにX,Y染色体特異反復配列(X:130bp,Y:170bp)を指標として,PCR増幅法によるDNA型分析を試みた。【試料・方法】室内保存の抜去歯の中から齲蝕の無い有髄歯を試料として歯髄と象牙質から、また歯科治療時に採取した歯石から通法に従ってDNAを抽出した。PCR増幅およびDNA型判定はD1S80座位ではKasaiら,HLA-DQalpha座位ではAmplitype^<TM>(シータス社),性別判定ではYamamotoらの方法に準じて行った。【成績・考察】まず同一人から新鮮な血液,歯髄および象牙質を採取,DNAを抽出し,PCR法によりD1S80型とHLA-DQalpha型の検出,ならびに性別判定を行ったところ,それぞれが正しくDNA増幅され,判定は可能であった。つぎに陳旧歯髄から抽出したDNA量を測定したところ,0.4〜25.9mug(歯髄乾燥重量1mg未満)を得ることができた。1〜4年間放置した歯髄からは高分子DNAが回収され,D1S80型およびHLA-DQalpha型については,PCR法で十分に正しくDNA増幅され判定は可能であった。5〜10年経過した試料では低分子化したDNAがわずかに回収されるに留まるものの,判定は可能であった。一方,歯石は細菌汚染が著しく,DNAの分解程度は高いと予想したとおり,高分子DNAは回収できなかったが,HLA-DQalpha型と性別についてはほとんどの試料で判定可能であった。現在,D1S80型分析については検討中である。 以上のことから,齲蝕の無い歯は,歯髄が硬組織より保護されており,高分子DNAが永く残存すること,また被検歯が無髄歯の場合でも歯石が存在すればDNA分析が可能であることが示唆された。この分析技術を応用して唾液および唾液斑のDNA分析を行う予定である。
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