研究概要 |
1.尿中ホスホプロテインの存在と精製及び排泄動態の解析 尿中タンパク質を各種クロマトグラフィーにより精製し、加水分解、誘導体化後、GC-MS分析した結果、尿中にホスホセリン(P-Ser)、ホスホスレオニン(P-Thr)、ホスホチロシン(P-Tyr)を含むホスホプロテインの存在が確認された。ゲル濾過法により算出されたラット尿中ホスホプロテインの分子量は、P-Ser,P-Thr含有タンパク質で約3-8万のものが数種、またP-Tyr含有タンパク質では約3万であった。一方ヒト尿中P-Tyr含有ホスホプロテインの分子量は約4万であり、Mirowskiらが報告した腫瘍関連ホスホプロテイン(65kD)の代謝分解物の分子量と一致した。さらに、炎光光度検出ガスクロマトグラフィーによる尿中結合型ホスホアミノ酸の選択的高感度分析法を開発して、正常人の尿試料を分析した結果、ホスホプロテインは食事による影響は受けず、早朝尿に最も多く排泄され、日内変動を示すことがわかった。また、P-Ser,P-Thr含有ホスホプロテインは加齢と共に減少するのに対し、P-Tyr含有ホスホプロテインは増加傾向を示した。 2.疾患モデル動物における尿中ホスホプロテインの動態解析 細胞増殖病態モデルとして部分肝切除マウスを用い尿中ホスホプロテイン排泄動態を解析した結果、細胞増殖に伴い尿中ホスホプロテインレベルは一時的に増加し、増殖停止に伴い回復することがわかった。特にP-Tyr含有ホスホプロテインは肝切除後2-4日後に14倍も増加しており、異常増殖を伴う腫瘍細胞でTyrのリン酸化が亢進していることと対比して興味深い知見が得られた。以上より、尿中ホスホプロテイン排泄は生体内リン酸化レベルを反映していると考えられ、今後リン酸化が亢進する癌や痴呆患者の尿を分析し、これらの疾患の診断の有効な指標となりうるか検討していく予定である。
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