研究概要 |
富士山の森林帯上部は主としてカラマツによって構成されている.その生育の限界高度は火山砕屑物の新旧や質に従って,大きく異なっており,西斜面で2,900m,南東斜面で1,400mとなっている.現在なお一時遷移が進行中であるが,先駆樹としての役割を持つカラマツの分布域は山麓部まで及ぶ.本研究ではこのように富士山に広く生育するカラマツに注目し,その成長量解析,すなわち年輪解析によって気候復元を試みるのがねらいである.そのために以下の調査・作業を行い,それぞれの結果を得た.なお,調査地域は山麓部に気象庁測候所があり,年輪資料と対比が容易である北西斜面と南東斜面を中心にした.1)北西斜面と南東斜面の森林限界付近と山麓部における成長錐(本補助金で購入)によるカラマツの年輪サンプルの採取:その数は約50本である.2)実態顕微鏡によるこれらの年輪数および年輪幅の読み取り:そのほとんどは100年未満であった.年輪幅の経年変化に関しては断片的に符合する年はあるものの,総体としての系統性は現段階では認められるに至っていない.3)北西斜面と南東斜面の山麓部に相当する河口湖測候所並びに御殿場測候所の気象観測記録の入手:それぞれ1933年以降および1940年以降のデータを入手した.なお,富士山頂のデータは1933年以降である.4)西斜面2,900mの樹木限界付近で長期データ記録装置による通年での温度観測:地上1.2m,地表面下5cmおよび25cmで観測を行った.地下5cmのものは器内に浸水したため測定できなかったが,他の2点では積雪期間を反映していると思われる約0℃を示す期間を明瞭に特定することができた. 今後,さらに多くの年輪サンプルの採取,特に伐根などによる円盤状のサンプルの採取,年輪解析にあたってより詳細な分析,特に季節変化に対応する年輪内構造の把握などが望まれる.
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