研究課題/領域番号 |
05808080
|
研究種目 |
一般研究(C)
|
配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
神経科学一般
|
研究機関 | 富山県立大学 |
研究代表者 |
中村 清実 富山県立大学, 工学部, 助教授 (20143860)
|
研究期間 (年度) |
1993 – 1994
|
研究課題ステータス |
完了 (1994年度)
|
配分額 *注記 |
1,900千円 (直接経費: 1,900千円)
1994年度: 500千円 (直接経費: 500千円)
1993年度: 1,400千円 (直接経費: 1,400千円)
|
キーワード | 空間作動記憶 / ラット / 海馬 / 頭頂連合野 / 微動電極法 / ニューロン活動 / 回転移動装置 / 方向弁別遅延見本合わせ学習課題 |
研究概要 |
これまで小さな実験動物(ラット)を用いた神経回路網の研究は、動物の脳が行動に伴って微妙に動くという難点のために主に麻酔下で行なわれてきた。しかし認識、記憶、思考そして行動制御といった高次脳機能は無麻酔下の行動動物を用いて調べる必要がある。脳の中でも空間記憶に関しては頭頂連合野から海馬への情報交換が重要で、海馬は特に記憶の初期形成過程に関与し、空間的な長期記憶(あるいは地図)は、頭頂連合野に形成されるという仮説が有力である。本研究では脳の空間記憶および識別機能の解明を目指し、平成5年度には当初の計画どうり、ラット用の頭部を無痛で無麻酔下に固定し、移動および回転可能な特殊回転移動装置を試作した。さらに本装置の周囲空間に6個の音刺激装置を設置し刺激の空間的方向の記憶に関する方向弁別遅延見本合わせ学習課題(空間作動記憶学習課題)を開発した。また水平移動タングステン記録電極を開発し、動きに伴う記録の不安定性の問題を解決した(微動電極法)。これらの計測技術を用いて、実際に方向弁別遅延見本合わせ学習課題遂行下ラットの脳内各部位(海馬及び後頭頂連合野)に微動電極を刺入し、空間記憶関連のニューロン活動を記録した。水平微動タングステン記録電極の卓越した特殊性能により、記録に際して思いもかけず、海馬の背側の後頭頂連合野に音の方向弁別遅延見本合わせ学習課題の遅延期間に有意の応答性を示す空間作動記憶関連ニューロンの存在が示された。しかし今までのところ海馬内には空間識別ニューロンはあるが、遅延期間に有意な応答性を示すニューロンは見つかっていない。この要因としては、新奇な刺激ではなく、よく聞き慣れた音刺激を用いたことによる可能性が考えられる。一方、ラットの向きを変えるという新奇な状況下で頭頂連合野の空間作動記憶関連のニューロン応答は増強され、海馬では遅延期間に有意な応答性を示すニューロンが出現した。空間記憶に関しては頭頂連合野-海馬ニューラルネット系の情報変換が重要視されており、本実験結果はプレリミナリーではあるが、海馬が記憶の初期形成過程に関与し、空間的認知の永続的な長期記憶は頭頂連合野に形成されると言う空間記憶仮説を裏付けるという興味ある知見が得られた。さらに理論的には、上記の神経生理学的知見を基にして、人工ニューラルネットを用いた計算機シュミレーションにより、物体の位置検出にもとずき物体を認識できる新しい人工ニューラルネット構造をプレリミナリーではあるが開発した。これらの成果は、ヒトや動物の脳に近い処理様式をもった新しいニューロコンピュータ開発のための糸口となることが予想され、今後さらに実験的および理論的研究を強力に推進する必要がある。
|