研究概要 |
本研究は、生物ないしその属性を部分的に持つある対象と、人間(ないし他の親近性の高い存在)との構造的類似性を想定することによって、その対象の振る舞いを因果的に理解しようとする、擬人化(つまり自分ないし人間一般についての知識を基底とする類推)などにもとづく因果推論に焦点をあてて、その計算論的モデルを構築しようとするものであるが、本年度はもっぱら、基礎的資料を得るために心理学的実験を行った。とくに(a)擬人化による因果推論がどんなときに行なわれ、どんなときには異なる知識を基底とする類推ないしほかの因果的ヒューリスティックが用いられるか、(b)自分ないし人間一般についての知識全体のうち課題の要求に応じていかに適切な部分が選択的に検索されるか、(c)検索された人間についての知識が対象へといかに写像されるか、(d)擬人化による推論が対象についての個別的知識によりいかに修正・調整されるか、(e)いかなる事象が因果的に説明すべきものとされ、いかなる事象が自明のものとされるか、(f)意図的因果と生気論的ないし目的論的因果はいかに使い分けられるか、に関して、幼児と大学生を被験者として一連の個別実験を行なった。(a)-(d)については、Inagaki & Hatano,1987,1991を精緻化する資料が得られた。(e)では、幼児でも説明を要しない標準的ないし定型的な事象と説明さるべき逸脱が区別されていること、(f)では随意選択の行動に対しては意図的因果による説明がほとんどだったが生命維持に関わる行動に対しては生気論的因果による説明がより多くなされた。
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