研究概要 |
加齢に伴うB細胞免疫グロブリン遺伝子レパトアーの変遷を検討するために,10例のCord blood,7歳,21歳,23歳,42歳の正常骨髄細胞,6歳,12歳,21歳,42歳,90歳,95歳の正常末梢血を採取し,リンパ球を分離した.得られた各リンパ球よりDNA,RNAを抽出した.先ず,免疫グロブリン重鎖(IgH)遺伝子において最も多様性に富むcomplementarity determining region-III(CDR-III)の遺伝子配列の比較を行い,その構成成分の加齢に伴う変化について検討した。その結果、DH,JHエレメントの使用頻度、Nセグメントの長さ、mutationの頻度に関しては、cord bloodを除いては、各年齢層において差は認められなかった。つまり、cord bloodにおいては、DHQ52エレメント及び、J2,3,4と比較的3'側に位置するDHエレメントと5'側に位置するJHエレメントの使用頻度が高く、Nセグメント(特にD-J結合部)は極めて短かった。一方、出生後リンパ球においては、小児、青年、壮年、老年期を通して差は認めず、DHエレメントの使用頻度はランダムであり、JHエレメントはJ4,5,6の比較的3'側のエレメントが高頻度で用いられていた。次に、B細胞の分化との関連を調べるために、小児、及び成人の骨髄細胞より、CD10,CD19,IgMの細胞表面への発現の差により、pre-B細胞と成熟B細胞をソーティングし、そのCDR-IIIのシークエンスを決定、比較したところ、DHエレメントの使用頻度はやはり、ランダムであり、Nセグメントの長さも末梢血リンパ球と同様であったが、JHエレメントにおいては、3'側のエレメントが多く使用されていたが、pre-B細胞においては、最も3'側に位置するJ6エレメントの使用頻度が高く、既に我々が報告しているpre-B急性リンパ性白血病における使用頻度と同様であった。以上の結果より、CDR-IIIの構造においては、出生後は各年齢層において差は認め難く、かつ、B細胞の分化においても既にpre-B段階においてほぼその構造は決定されており、出生後の免疫能の変化は、主として可変部(VH)領域の構造、すなわちVHエレメントの種類及びVHエレメントにおけるmutationが強く関与していることが示唆された。そこで、正常成人における抗体産生細胞におけるIgH可変部領域のmutationの頻度を抗体のサブクラス別に比較検討したところ、IgM<IgA<IgGの順にmutationの頻度は高くなり、抗体のサブクラスによってmutationの頻度が異なり、各抗体に要求される抗原特異性を反映していると考えられた。現在各年齢層における抗体産生細胞の可変部領域のmutationの頻度を各サブクラス別に検討中である。
|