研究概要 |
絹の劣化度の定量的評価法の確立に関しては,劣化促進によって基準資料を作成し,各種の機器分析法を用いて得られた分析データと劣化促進時間との相関について検討した。また,劣化促進時間と相関性のある手法を,経年変化を受けた絹資料に適用し,実資料に適用する際の問題点について検討した。 (1)絹の劣化度の定量的評価法の確立 主として波長300-400nmを放射するブラックライトを用いた劣化促進装置を試作し,紫外線による劣化促進を行った。約600時間までは緩やかに強度が減少し,約2000時間の放射で,補絹に用いている電子線照射絹と同程度の強度となった。同試料に対し,電子スピン共鳴法,紫外可視分光分析法,化学発光計測法,赤外分光分析法を適用し,有機ラジカル量,芳香族アミノ酸量,アミド結合量および表面から放出されるフォトン量と劣化促進時間との相関を検討したところ,電子スピン共鳴法および紫外可視分光分析法が適用可能であった。 (2)実試料への応用の問題点 黒および緑に染色した絹試料について劣化促進試験を行い,上記の2法を適用したところ,光劣化では表面層に分布した染料が優先的に光分解して有機ラジカルを生成するため,電子スピン共鳴法による評価は困難であった。また,染料による遮蔽効果で絹本体の劣化速度が減少することが明かとなった。 また,8世紀より収蔵されていた未染色の絹試料に関して,上記2法を適用した。分析データから推測される強度と実試料の強度は対応し,未染色のものに関する適用の可能性を示唆した。各時代の絹に同法を適用し,直線性を確認し,適用の是非を検討する必要があることがわかった。
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