本研究は、年輪年代法によって近畿、東海地方の弥生、古墳時代の遺跡出土木材の年輪年代を明らかにし、両時代の暦年を明らかにすることを目的とした。 1近畿地方の弥生・古墳時代の暦年代 (1)滋賀県栗束町の下釣遺跡の発掘調査によって、2間×5間の掘柱建物が発見された。柱穴の多くに直径30cmのヒノキの柱が残っていた。この建物は土器の年代で弥生時代後期と比定されていたが、この柱の年輪年代で最も新しいのは69年である。これに若干加工して削除した分の年輪層数を加算すると、その原木の伐採年は西暦100年前後が考えられる。土器編年でいう弥生後期とは西暦何世紀頃をいうのか定かでないが、この年輪年代から推定した年代値は弥生後期の暦年を決定する上で重要な年代情報となろう。 (2)奈良県桜井市にある〓向石塚古墳の前方部の周濠の低付近から出土したヒノキの板状木製品の年輪年代は西暦177年と確定した。しかも、この板材には1.8cm幅の辺材が残在していた。普通ヒノキの辺材幅は約3cm程度である。とすると、約1.2cmが削除されていたことになる。この板材の外側、50層分の平均年輪幅は約0.54mmである。仮にこの年輪幅で最終年輪(伐採年に形成された年輪)まで推移したとすると、約23層分の年輪が刻まれていたことになる。したがって、板材の年輪年代にこの数値を加算すると、西暦200年となり、ほぼこの頃に伐採されたことが推定できる。〓向石塚古墳の年代は、従来の説だと三世紀後半頃のものであるといわれていた。この年輪年代から導き出された推定年代は、この古墳の築造年代を考える上で大変重要な年代値となる。近畿地方以外の地域でも継続的に実施しているので、近い将来必ず弥生・古墳時代の暦年は明らかになろう。
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