1.ソリトンの運動 本年度発表した三編の論文はソリトンの運動に関するものである。ソリトンの拡散運動が十年ほど前まで理論実験の両面で活発に研究されたが、その後ソリトンは高温のほうが動き易いか低温のほうが動き易いかという基本的問題すら解明されてないにもかかわらず研究の進展がないことを最初の論文で指摘し、残された問題あげ、可能性を吟味した。第二論文ではソリトンを持つ系として知られているポリアセチレンをアルカリ金属でドープしたときの数値シミュレイションの結果を報告した。ドーパントのポテンシャルが長距離型であることの影響が、格子振動、赤外吸収、ソリトンの運動状態に現れることを示した。第三論文はポリアセチレンの理論模型であるTLMモデルで動いているソリトンを記述する方法を開発した。ソリトンの速度が音速に比べて遅いときその間の比を小さなパラメタとして摂動論が適用できることを示した。ポリアセチレンのなかでソリトンが電気伝導を担う場合の機構を解明するのに、動いているソリトンの構造を知っていることは有効である。 2.ソリトン格子 ポリアセチレンをドープして行くと、ソリトン格子が出来て、やがて相転移をして金属になる。不純物配置がランダムなとき、この様子を記述する理論をつくった。半導体に対して以前に作られたのと同じ段階の理論であるが、ソリトン格子によってオーダパラメタが空間変化をしているときの理論としては初めてのものである。その結果によれば金属転移の起こるドーパント濃度は実験と合っている。白崎はポリアセチレンがTLMが仮定したような連続体ではなく格子構造を持っていることの影響をseif-consistentに考慮できることを示した。ソリトンの拡散運動の一つの機構がポリアセチレンの格子構造にあるのではないかという意見が前からあり、白崎のこの仕事はその意見の適否を理論的に研究する出発点になりうる。また水素からできているポリアセチレンと重水素からできているポリアセチレンのソリトンの生成エネルギーの間に大きな違いがあるいとう実験があった。白崎は電子格子相互作用の影響を完全に考慮すればTLM模型でこの大きな差を理解できることを示した。
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