研究概要 |
血管新生は固形腫瘍が増殖,進展する上で必要不可欠な重要なプロセスであり,この過程なしでは腫瘍な成長できない。VEGFはその活性から,腫瘍関連の最も有力な血管新生因子として注目されている。肝細胞癌(以下,肝癌)の生物学的特徴の一つとして,その血管新生が非常に強い点があげられる。したがって肝癌の血管新生においても肝癌細胞自身からのVEGFの発現が強く関与しているのではないかと考えられる。本研究では,ヒト肝癌の細胞株,臨床手術材料を用いてヒト肝癌組織においてもVEGFの発現が増強し,肝癌の進展に関与しているかどうかついて解析した。まず肝癌細胞におけるVEGFの発現を5種類の肝癌細胞株において試みた。これらの培養細胞よりmRNAを抽出し,またホルマリン固定を施し,Northen blot analysis,および免疫組織染色を施した。さらに培養肝癌細胞株の培養上清中へのVEGFの分泌をWestern blot法で解析した。次に,実際の生体における肝癌とそれ以外の非癌組織のVEGFの発現かどうかを比較検討するために,10症例の臨床手術材料をもとにして,VEGFの発現を同様の手法で検討した。5種類の肝細胞株を検討した結果では,どの肝癌細胞株においてもmRNA,蛋白レベルにおいてVEGFの高発現が,Northen blot analysisおよび免疫組織染色を用いた手法において認められた。また肝癌細胞株(Hep G2)の培養上清中にはVEGFの分子量42kDに合致する蛋白が分泌されているのが証明された。10症例の臨床材料を用いたNorthen blot analysisおよび免疫組織染色では,Northen blot analysisでも免疫組織染色においても同様に,癌部,非癌部ともVEGFの発現が認められた。しかしながらほとんどの症例において肝癌組織においてVEGFの発現増強が認められた。VEGFの血管内皮細胞への直接的,特異的な作用を考慮すると,VEGFが肝癌の発育,進展に伴う腫瘍血管新生因子の一つとして有力な役割を担っているのではないかと考えられた。
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