本年度の研究成果は、二度にわたり口頭発表を行った。「トマス・リ-ドのヒューム批判」(イギリス哲学会中四国研究例会)では、リ-ドの観念説批判を検討し、彼の批判の射程が、1個の科学的仮説としての観念の説というよりも、むしろ、そうした説の前提としている知識観そのものにある事を明らかにした。 つまり、彼によれば、我々の知識は様々な原理に依拠して成立しているが、このような原理は、デカルトに典型的に見られるような、絶対確実性を持ちそこから全ての知識が導かれるといった種のものではない。 これらもまた一種の科学的仮説ととらえるべきものなのである。 この点において、リ-ドは徹底した自然主義的認識論の立場に立つものであり、ヒュームと通底するのである。しかし、また、両者には、因果関係、特に人間の行為に関わるそれをどう理解するかという点で大きく相違する事を明らかにした。 以上の事を念頭において、「因果関係の実在性について」(京都科学哲学コロキュウム)では、以上のような問題を取り扱っている現代の因果論について、諸説を検討した。 この点に関して、積極的な結論は見い出し得ていないが、自分としては行為の概念を中心に据えた因果関係の実在論が組み立て得るのではないかという感触を得ている。 そこで今後の課題としては、必ずしも明確に提示されているとはいえない、リ-ドの因果論を取り出し、それをこのような現代的な文脈で両評価することを試みたい。なお、論文化に向けて、口頭発表した内容を現在再検討中である。
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