1.人間学的な「性格」概念に定位して〈人格の生成論〉を試み、「カント人間学におけるライフサイクルの問題-〈性格〉形成を中心として」と題して口頭発表をした(カント研究会第75回例会、平成6年2月、東京)。(1)カント人間学における人間の自由な〈自己形成〉の問題を、「段階説」と「革命説」の対照という見地からトータルに把握した。さらにまた、第1批判から宗教論にまでいたる「性格」をめぐるカントの思索の深まりと広がりに対して、全体的な照明を与えた。(2)40歳を目安とする「怜悧性」の獲得と「心術としての性格」の樹立との本質連関を、70〜80年代の手書き遺稿なども援用しながら理解した。(3)とりわけ「性格に関する格率」として具体的に掲げられる一連の行為原則に着目し、人間学と倫理学との結節点を見定めた。(4)こうした問題に関する先行研究として、H・ハイムゼ-ト、M・ゾンマー、H・ヴィヒマンなどの所論を批判的に検討した。 2.「経験」概念の諸相に関しては、N・ヒンスケの「人生経験」という概念の検討を通じて「怜悧性」の獲得について重要な示唆を得たが、当初予定していた〈経験の成熟〉の構造の解明には着手できなかった。 3.経験心理学および合理的心理学との連関では、人間学的な「趣味」概念の形成という新たな問題に逢着した。とりわけ、カントがバウムガルテンの経験心理学における「趣味」概念の換骨奪胎を通じて「人間性」の理念を獲得する過程を概念史的に綿密に検証する必要に迫られることになった。「趣味」の陶冶は「性格」の樹立および「道徳性」の確立に対して、可能的-具体的な通路となりうるからである。「実践的地平」と「美感的地平」の交差という見地からこの「性格」と「趣味」の問題を解釈することが、今後の具体的な課題となる。
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