本課題の最終的な目的は、1980年代のドイツにおける反教育運動の意義を歴史的に総括し、近代教育理論形成史に位置づけるための視点を明確にすることであった。そのために、1)反教育運動のうち、最も包括的な影響力を有していると思われる「子どもたちとの友好促進協会」(1978年創立。Freundschaft mit Kindern-Forderkreis.e.V)に焦点をあて、その実践を調査すること、2)分析枠組みを得るために、N.ル-マンを中心とする社会システム理論を参考にすること、の二つを主な研究方法として作業を進めてきた。1)については、理論的には明確に教育を否定する思想として教育学に多大なインパクトを与え、80年代の教育学を象徴する出来事の一つであることが確認できた。しかし、実践面ではドイツ統一という社会状況の急変を経て、近年は80年代半ば頃までのような影響力はないようであり、その実態についてはなお不明な点が多く残った。近日中に直接ミュンスターの本部を訪問してさらに調査を重ねる予定である。2)については、多くの知見を得ることができた。まず、社会システム理論が提起する自己準拠という概念は、運動体の発展過程を理論を含めて解明する上で有効な概念であることが確認できた。さらに、社会システム理論を基盤とする新しい教育理論が80年代半ば以降教育学の理論的な組み替えを進めていることがわかった。社会システム理論は反教育運動と共に80年代に教育学に対し理論的再検討の契機を与え、ドイツ統一後の今日も影響力を増しているようである。今後さらに80年代のドイツ教育学について研究を重ね、近代教育学の理論的総点検に着手したいと考えている。 なお、本課題の成果としては、現在複数の論文を投稿準備中である。
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