研究概要 |
本年度は、(1)OCR入力による中原中也の詩作品のテキストデータの作成、(2)テキストデータの半角カタカナへの移し換え、(3)音韻分析、(4)音韻的特徴の抽出、(5)音韻的特徴と詩想との関連の考察、の五段階にわたる計画を立て、研究に取り組んだ。 (1)については、中原中也の二つの詩集『山羊の歌』『在りし日の歌』と初期短歌のテキストデータの作成を終え、現在未刊詩を入力中である。なお、作成済みのものについては、データベースとしての公開を検討中である。 (2)については、前記の『山羊の歌』『在りし日の歌』および初期短歌について、作業を終えた。 (3)については、フリーウェアのストリームエディタSEDによる音韻分析のためのスクリプトを作成し、母音、子音の調音の方法・調音の位置による分析を行った。 (4)については、ある作品のオノマトペの音韻的特徴が近接する詩句にもみられる例や二つの詩集の違い等に着目した。 (5)については、「一つのメルヘン」において使用されている〈さらさら〉というオノマトペについて,未刊詩におけるもうひとつの用例と比較し、その音韻的特徴と永遠なる時間の表象化という詩想の関連を探るといった個別的な問題に取り組んだ。 最後に、萌芽的研究としての問題点を指摘しておきたい。OCRソフトによる入力が予想以上に能率が悪く、思うようにテキストデータの作成が進んでいないが、これは特定のソフトの問題というより日本語のOCRソフト自体がまだ発展途上の段階にあるためであり、入力作業の効率化に工夫の余地が残されている。音韻的特徴の分析には比較すべき他の詩人のデータが必要であり、北原白秋ら影響を与えた先行詩人の詩作品の入力が急がれる。また、こうした分析を通じて、音声イメージという観点自体の理論的方法的検討を行う必要があるだろう。
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