本研究の目的は、1960年代アメリカ演劇における演劇思想の全体像を明らかにすることにあった。基本的には資料収集とその整理ということで研究を行ったが、研究の過程で、この時代の演劇思想を研究するためには、比較文学・文化的な視座がどうしても必要であるという結論に達した。そのため今年度は、同時代の日本の演劇思想に関係する資料の収集にも力を入れ、それなりの成果を収めたと思う。 本研究では、上記のような視点を導入することで、以下の諸点が明らかとなった。 1)60年代演劇のキィワードとされてきた身体/肉体、それに集団という問題が、従来のアメリカ演劇研究で明らかにされてきた以上の問題性をはらんでいる。2)60年代の演劇思想はモダニズムの芸術論と80年代以降のフェミニズム(サイボ-グ・フェミニズム等)との理論的枠組みの中で思考されるべきである。3)今年度は予算の関係で実現しなかったが、この時代の演劇を研究するためには、フィールドワークが必須であり、アメリカに長期滞在しての研究が求められる。 1)については、今後の研究課題として、論文のかたちで思考と継続してゆく予定である。2)については、平成6年度6月開催予定のアメリカ文学会東京支部におけるシンポジウムで口頭発表を行う。3)については、機会があればなるべく近いうちに実現をしたいと考えている。 本年度の研究により上記1)が新たな研究課題として浮上してきたわけだが、今年度以降は、その問題の解明に生産的に取り組むために、主として比較文学・文化的視座からの、60年代演劇の思想的側面についての研究を展開してゆく。
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