従来メロドラマという物語ジャンルは悲劇の衰退した形式であると誤解され、蔑視される傾向にあった。しかし、封建体制の終焉とブルジョワ階級の台頭という社会的変動、および神話的想像力や宗教、伝統的価値観の衰退にともなう新しいモラル、価値観の成立という文脈から、メロドラマの構造と歴史を解明する試みは全くなされていない。本研究は、その資料体としてヴィクトリア朝演劇から感傷小説および今世紀に産声をあげた新物語媒体たる映画(とりわけ20〜50年代のハリウッドの諸作品)まで拡大・限定したうえで、これまで等閑視されていたメロドラマ再評価の観点から、人間の想像力、世界の認識方法を範疇化していく点に特徴がある。また本研究は、従来なされてきた悲劇という物語ジャンルから人間精神の本質的構造を探る文学研究を全く異なる観点から再検討するという役割も担う。 本研究は、一昨年より継続的に断続中の、そして現段階で別記「研究業績」欄中の著者として刊行された研究書に、その成果の一部が発表される同趣旨の研究を発展・成長させる性格を有するものである。
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