1980年代以降のロシアの資本形成メカニズムを分析した。具体的には、第1に、1980年代以降のロシアの国民所得統計データの収集、整理を行った。とくに、支出国民所得データの内訳として、国定資産増加、物的流動手段・予備増加のデータの整理を行い、これによって、ロシアの固定資本蓄積動向を分析するための統計資料を確保した。また、これらの国民所得統計データと資本統計データ(資本ストック、投資、固定資本稼働開始、未完工建設)との整合性を点検する試みも行った。第2に、これらのデータの整理に基づいて、1980年代以降のロシアの国民所得成長を分析した。そのなかで、資本蓄積あるいは投資がロシアの経済成長を規定する大きな要因であったことを明らかにした。とりわけ、1986年以降、投資増大による成長加速化戦略が取られたものの、未完工建設の増大をもたらしただけに終わった過程を分析した。また、1989年以降の固定資本蓄積の顕著な減少傾向が、ロシア経済のマイナス成長転化の重要な要因であることも明らかにした。第3に、このように、従来の資本形成メカニズムが機能しなくなるなかで、どのようにして新しいメカニズムへの移行がはかられているのかについて調査・検討を行った。なかでも、私有化の問題と固定資本の評価替えの問題に焦点を当て、1992年初めに市場経済化策が本格的に採られるようになって以降の制度的変化を詳細に検討した。また、資本形成メカニズムの転換に際しての財政的制約に関しても考察を加えた。
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