近年われわれが経験してきた経済現象の1つとして、為替レート、株価、地価といった資産価格の激しい変動がある。このような資産価格の激しい変動は、これまでにも、予想されない外的ショックの存在やオーバー・シューテング理論によってある程度は説明されてきた。しかし、近年の激しい資産価格の変動は依然として従来の理論では説明できない部分も多く、この分野は新しい理論が構築されることが望まれている分野の1つである。そこで本研究では、近年応用物理学や生物学の分野で研究が進められている非線形動学の手法を経済モデルに応用することによって、経済システムの中に資産価格の激しい変動を内生的に生みだし、かつそれを増幅させるメカニズムが存在することを分析した。具体的には、簡単なミクロ的基礎を持つ貨幣経済モデル(money-in-utility-function model)を構築することによって、所得効果と代替効果の相対的な大きさのバランスが、価格水準にカオス的な変動を引き起こす可能性やサン・スポット均衡を生み出す可能性を導出した。分析は、はじめに海外との取引が存在しない閉鎖貨幣経済をベースに行われた。そして次にその基本的な結果を、簡単なミクロ的基礎を持つ国際マクロモデルへと拡張し、為替レートなどの資産価格がカオス的変動を起したり、サン・スポット均衡を持つ可能性を明らかにした。なお、これらの研究成果の1部は、本年度、既に海外の専門誌に掲載されており、またそれを拡張した研究も改訂版が海外の専門誌で審査中である。
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