累積債務問題が噴出した80年代において、ほとんどの途上国は金融面、貿易面で世界経済の荒波に見舞われていた。「カジノ化」とも称される先進国金融市場の自由化、アメリカの純債務国化などに伴う資金フローの逆転は、主要債務国対外債務の実質利子率を引き上げ、途上国累積債務問題の解決を困難なものとした。工業化が伸展しているとはいえ、いまだに輸出の大宗を一次産品に頼る途上国が多い中、一次産品価格の長期低落化、債務の元利払いのため奨励された商品輸出拡大に伴う商品価格の低下も累積債務問題を深刻化させてきた。 確かに債務諸指標は若干の好転を見せているが、厳しいコンディショナリティを伴いおこなわれた構造調整政策は国際金融界の安堵と引き替えるにはあまりに大きな負の効果を生み出し、その影響は国境を越え拡大している。 巨大債務国ほど森林伐採増加率も顕著である。一次産品価格の低下に伴う公式経済の低迷は麻薬生産を蔓延らせている。民間銀行主導の債務処理過程は、先進国納税者に余分な出費を強いている。債務国経済の低迷は先進国の雇用と市場をも縮小させている。債務途上国で生活を維持できない人々は先進国に傾れ込み様々な摩擦を生み出すほか、途上国においては頭脳流出という事態を生み出している。さらには構造調整政策の求める財政支出の削減は債務国においての社会的予算の削減につながり紛争の火種を生み出している。 本年の研究から導かれるべき結論は、累積債務問題の解決に向けて、短期的ないしミクロの視点を越え、雇用と所得を世界的規模で持続的に保証するシステムの構築が目指されるべきであるということである。世界的規模で市場経済化が伸展しているが、市場経済における開発において必要とされるのは、市場メカニズムを補完するシステムなのである。
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