研究概要 |
流通変容のメカニズムを,日清戦争前後から第二次世界大戦終結までの約50年間にわたる,朝鮮半島での史的分析を通して明らかにすることが,研究のメインテーマであった。 具体的に,また中心的に取り組んだのは,朝鮮鉄道史と朝鮮貿易協会の活動に関するものである。朝鮮鉄道史を通した物流体制の構築過程と業務運営状況を調査・分析することによって,朝鮮における流通インフラ構築・維持内容の中核を明らかにすることができた。また,朝鮮貿易協会の設立実態は,第二次大戦突入時の流通状況や業界の機運を知るてがかりとなり,またその運営実態は戦時下の配給体制を知るてがかりとなった。 時間と補助金の大部分は,資料の収集と分析にあてられた。資料収集のために出張したのは,福岡(九州大学,福岡大学),山口(山口大学),兵庫(私設文庫),滋賀(滋賀大学),愛知(私設文庫)である。 これら資料の収集と分析によって,朝鮮の流通変容が日本内地の政府と産業界の思惑によって規定されていったこと,またその一方で,在来の朝鮮流通を必ずしも排除できない側面を見出すことができた。いわゆる「内地式」流通が内地人が関わる領域でしかいかされず,政治家や財界人が朝鮮人の日々の消費行動までも傘下におさめようとしながらも,それは達成できなかったのであった。政治動向を超越する商業の論理がいかなる状況下にあっても,存在することを示唆する研究成果が得られた。
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