1.本年度の最大の成果は、開楕円曲線の副エル基本群から生じる外ガロア表現の数論的研究に対する最初のステップを踏み出したことである。実際、射影直線マイナス3点の場合に伊原氏等が確立した普遍ヤコビ和級数の類似を種数1の場合に構成することにより、この場合の外ガロア像の中心化群の有限性や曲線の基本群による特徴づけの問題に対して得た成果(投稿中)を踏まえ、基本データ関数の特殊値のガロア理論的なふるまいについての群論的理解を進めた。 2.双曲型代数曲線の副エル基本群や副エル写像類群の重み次数商加群上の「座標地図」は、種数の増大に伴い安定な symmetric-symplectic 分解型が定まるが、計算機を用いて15次までの一覧表を作成した。 この表から観察されることの一部に、各次数商加群の symplectic 加群として最高ウェイトベクトルが重複度自由にあらわれるということがあるが、これらが実は1、2次の特殊なベクトルから規則的なリ-交換子として生成されることを朝田衛氏との共同研究の中で証明を与えた(投稿中)。また特殊な種数と標点数に対して上の分解型を特殊化するための表現論における(小池・寺田)アルゴリズムの一部を含む座標地図関連の計算のための数式処理パッケージを試作した。 3.完備曲線のモジュラス多様体の副エル普遍モノドロミ-から織田氏が興味深いエル円分体上の数体の塔を定義したが、これを標点付きの場合に拡張する自然な定義をあたえた。上の第2項の座標地図やモジュラスの境界付近の振舞いの観察などからそれらの体の塔の種数方向の安定性についての傍証を得た。また標点方向の安定性についての証明を与えた。(高尾氏との共同研究)。
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