20世紀の初頭にJ.Hadamardが適切性(well-posedness)の概念を提唱して以来、微分方程式の研究は適切性についての研究であったと言っても過言でない。特に物理学や応用数学に現れる微分方程式-現象を記述する偏微分方程式-は適切な問題以外は扱わないと考えられていた。しかし、逆問題やシンセシスの研究が地球物理・工学に於いて進むにつ非適切問題(ill-posed problem)の研究は、単なる病的な数学現象の研究ではなく、正面から取り扱われるべき問題としてクローズアップされてきた。その様な事情の中で、本研究は非適切問題の典型ともいうべき楕円形偏微分方程式の初期値問題を取り挙げてその数値解析を試みた。本研究では楕円形初期値問題を有界領域で考え、この問題を境界値問題で置き換えて境界要素法を利用して数値計算を行い、境界要素法のこの種の問題への適用性について検討を行なった。数値結果を見る限り、問題の非適切性を反映しながらも境界要素法によるアプローチの有効性も確認された。厳密な収束等の解析は未完成であるが、萌芽的研究としてはその将来性を確認できたという点で一定の成果を得たものと判断している。精密な解析の為にはTikhonouによる適切性の概念の導入が必要であり、今後の研究の結果を待たねばならない。
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