研究概要 |
クェーサーブラックホール形成を調べるために、宇宙晴れ上がり直後の密度ゆらぎの非線形成長を3次元流体計算コードを用いてシミュレートした。この計算では、宇宙論的降着円盤の形成と分裂、そしてコンプトン粘性による角運動量輸送を計算しなければならないため、新たに開発した3次元流体粒子法を用いた。この力学系では,熱制動放射、共鳴線遷移、コンプトン散乱、輻射性再結合などのバリオンガスの熱力学的効果だけでなく,ダ-クマタ-やガスの自己重力が重要な役割をする。また、電離過程の時間発展も、進化に大きな影響を与えるため、これらの物理過程を採り入れた計算を行なった。宇宙モデルはバリオンのみの場合とバリオンとダ-クマタ-が共存する場合の両方を調べた。 この計算によって明らかにされたクェーサーブラックホール形成のシナリオは以下のようなものである。まず、宇宙初期の密度ゆらぎは、重力不安定性によって高密度ガス雲に成長する。このとき、ゆらぎは角運動量を獲得するため、1点に凝縮することはなく、回転降着円盤ができる。この降着円盤の内部では、局所的重力不安定が起こるため、そこで第1世代の星が誕生する。ガス円盤の約10%が星に転換されると、残りのガスは星からの紫外線によって完全電離状態となる。すると、この電離プラズマと宇宙背景放射の間のコンプトン粘性が急激に強くなり、プラズマから宇宙背景放射へ角運動量の輸送が起こる。その結果、降着円盤は急速に凝縮していき、非常にコンパクトな系が出来上がることになる。このコンパクトなガスコアは一般相対論的に不安定となり、宇宙年齢の10万分の1程度の時間でクェーサーブラックホールへと進化する。 この成果は、論文としてまとめられ出版された。
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