原子核を記述するハミルトニアンが完全に乱雑であれば、エネルギーレベルの最近接分布統計はウィグナー分布以外には現れないことが知られている。ところが最近、実験のレベルの統計を詳しく分析すると、軽い原子核に比べ、重い原子核ではポアソン分布に近い統計が存在することがわかった。つまりこのことは、重い原子核での運動は軽い核に比べて規則正しいことを意味する。対称性という見地から見ると、これは原子核が重くなるに従って何らかの対称性を有するようになることを意味している。原子核ではスピン・パリティーしか厳密に保存しないことを考えると、このことは決して自明ではない。そこで我々は、この原因を重い原子核でSU(3)量子数がよい量子数になるせいではないかと推測した。このことを具体的に調べるために、多くの原子核を統一的に、しかも簡単に扱うことができるジノキオ模型を用いて解析した。ジノキオ模型には殻の縮重度を表わす変数OMEGAがあり、この変数によりシェル(殻)の大きさが決まる。すなわち重い原子核ほどシェルが大きいので、この変数OMEGAは大きくなる。一方、ジノキオ模型はOMEGAが大きくなるにしたがって、相互作用するボソン模型に近づいて行くことが知られている。ジノキオ模型自身は、強く変形した場合においても、SU(3)のような対称性は存在しない。そこで我々は次のような仮説を立てた。すなわち、OMEGAが大きくなるにしたがって、変形核を記述するジノキオ模型にSU(3)対称性が復元するので、レベルの統計はウィグナー分布とは違ったものが現れる、というものである。この研究では、この仮説を実際に数値的に検証し、OMEGAだけの違いにより、レベルの統計が軽い核から重い核に渡って変化する実験値を定量的に再現することに成功した。
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